紫陽花のひとり言

気品溢れるガクアジサイ静かに静かに雨が降っています。こんな時だって散歩したいものです。雨靴履いて水色の傘を手に出かけました。
十メートルも歩かないうちに、上品な額紫陽花(ガクアジサイ)に出会いました。雨の中でたおやかに微笑を湛えているかように見えたので、寄り道。急いで近づいてみました。

紫色の縁取りの内側には淡いピンクとブルーに彩られていて「しっとり、ゆったり」という印象を受けました。わたしもたおやかな気分になってきます。
悠然と雨の滴りを受けている姿は高貴で美しすぎます。
『なんと雨が似合う花なのでしょう!珍しいわ。希少価値があるわね。』
と心の中で感動。

すると、まだ青いままの小さな蕾が、粒玉のような頭を動かし始めました。そして、紫陽花の気品ある低い声が雨音に混じって聞こえてくるではありませんか。どうやら、わたしに語りかけているのか、はたまた、独り言なのか、分かりませんが・・・とにかく、聞こえます。
おそらく、紫陽花の彼女が常々思っていることをつぶやいているのでしょう。耳を傾けることにします。

「私、昨日咲いたばかりの紫陽花。六月の雨に打たれて、今日も咲いてる。 紫陽花の私は『雨を好きな花』ですって?
『雨が似合う花』ですって?まあ、うふふ。
誰が言ったのかしらね。世の中の人間様にそんなイメージがあるのですね。
やっぱり、そうだったのですね。気がついてはいましたが。

でもね、他の紫陽花仲間のことは知らないのですけれど、私・・・雨は特別嫌いではないけど・・・決して好きではないのよ!人間様の期待を裏切って、ご免なさいね。
そう、私は雨が似合う花だなんて自覚した事もないの。
でも、人間様の私に対するイメージがそのように作り上げられているのなら、それでも、別にいいわ。

どんなイメージを作り上げられても、私の本質は変わらないのですものね。どんどん自由にイメージして貰って構わないわ。自由にどうぞね。
人間様がどう評していようと、私としては、それも現実ならあるがままに受け止めることにしているの。そのほうが幸せですものね。
それで、雨の日も楽しく咲くことに決めているから、『雨が似合う花』のイメージになったのかもしれないですね。どんな現実の中でも楽しくしてる、って大事でしょ?うふふ。

だけどね、誰にも私を『雨の日を望んで待っている花』には決して出来ないわよ。だって、やっぱり、私もあなたと同じで、できればお日様の日を待っているのですもの。私は自分が梅雨の合間の青空の下で生き生きと輝いて咲くのが、夢だし生きる目標なの。
実は、世の中が私に付けてくれた名前の通り、ほら!『紫』と『花』の間に太陽の『陽』があるでしょ?『紫陽花』って!人間様は何気なく、私の本心をご存知だったのでは?だから、命名したのに違いないと思って、この名前に感謝してるの。

そうなのよ、私の生涯の目標は『太陽の似合う花』になること。どんなに『似合わない』とか『イメージじゃない』とか評価されても、変わらないわ。全然平気なの。人間様の誰もが、自由に好きなことを考えたり感じたりして、言い放つ権利があるのですもの。それはそれで否定しないで認めているわ。
でもね、私は私なのだから、勝手なイメージを私に植え付けようとして、たとえば、どんな力を加えて来ても、受け流すだけよ。ご免なさいね。私、悪気はないの。

ただ、自分の本当の気持ちを理解できるのは、自分だけだから、自分に正直でいたいだけなの。そのほうが、私らしく幸福に輝いていられるのですもの。
こんな私だけど、これからも・・・六月の空の下に咲く私を見つけた時、実は『太陽の似合う花』になろうとしている事を思い出して欲しいな。その上で、これからも優しく眺めてくれると嬉しいわ。

そして、せめて・・・雨をうっとうしいと感じる人間様たちにとって、ほんの少しでも私の姿を見た時に、気持ちが明るくなって安らぐのならば、雨に打たれたままでも喜んで咲くわ。だって、私の本心の通りに『紫陽花』と名前を付けて呼んでくださる人間様たちですものね。」。

「まあ!そうだったの。分かったわ。」
わたしは反省も込めて了承しました。すると、

「ありがとう~嬉しいわ。明日も自分の思い通りに咲くつもりよ。ああ~、お日様!輝いてくれるといいなあ~!」。

紫陽花の彼女は、夢見るように嬉しそうな雰囲気で小首をもたげて、雨空を見上げ囁きました。その花姿は先ほどよりも、もっともっと秀麗で上品で凛としています。

こうして、散歩道で紫陽花の独り言を聞いてしまいました。
『そうか、わたしは偏見や予断の虜にされていたんだ。それでも、紫陽花の彼女はそれを甘受しながら、楽しく咲いてたんだ。美しく咲いてくれてることに感謝しなくっちゃ。』

そんな実りある雨の日の散歩道でした。
それにしても、雨の中でもなんと高貴な花なのでしょうね。
紫陽花自身にとって、雨の日が好きか否かは別として。

紫陽花がたおやかに言いました。
風雨も大気のメンテナンス!それは、私たちの環境のためね。
浄化された大気は、私たちを健やかに育むのですもの。
だから、どんな天候にも感謝して甘受したいわ。
自然の法則って全ては私たちの命の存続のためなのですもの!

(written by 徳川悠未)